その日は少し驚いたことがあった。
家に入ろうとしてノブに手をかける。
鍵がかかっていない事に気がついた。ドキドキした。
ここまでなら鍵を閉め忘れたのかと思えるのだけど中から人の気配が感じられる。
やべぇ、ついに我が家にも泥棒が。何にも金目の物ないのに…!
でもって勢い良くドアを開けたらそこには見知った顔がいた。がっくりした。
「ちょっと、叔母さん?大家の身分を利用して人の家に勝手に入らないで下さいよ」
「あー、お邪魔してるわ。ちょっとCD借りたくってさー」
相変わらず人の話を聞いてくれない叔母だった。
ホント期待したのに残念だった。
しかも酷いことに。
「…。てかさ至愛ー。おばさんって言うのやめなさいって言ったでしょ。まだアタシ二十代なんだから。」
「ボクが言ってるのは父親の兄弟を表す方の『おば』ですよ。それにもうすぐ三十路でしょう。」
問答無用で殴られた。
そしてその上重要な事をさらりと言う。
「あ、兄さんからついさっきウチに電話あってさー。あんたに用事あるっていうからさっきから保留にしてあんのよね。」
……早く言えよ。
ホンキで思った。
急いで叔母さん家に行って急いで電話を取る。
「もしもし父さん?お電話かわりました。至愛です」
「ああ、至愛か。久しぶりだな、元気にしてるか?」
「はい。そちらこそ、お元気そうでなによりですよ。」
「ところで、御用とは」
「引っ越したんだ。
だから適当に要らない物とか、お前が持っていかなかったものとかあるから持って行くと良いと思ってな。
どうする?」
少し、悩んだ。
あそこに置き忘れたものなど、あっただろうか?
何も持たずに出て行ったけど、特に、なかった気がする。
でも行っただけ何か良い報酬があるかもしれない。そんな意地汚い思いで行く事を決める。
「そうか。じゃあ鍵、送るな。2、3日でつくと思うから」
「…あと、多分無いだろうが、母さんに見つからないようにな。」
静かに、重く、言われた。
「ええ。死んでも見つかりませんよ。」
鼻で笑って答えた。
電話を切って、何だか胸の辺りに痛さを感じた。
なのでその後適当に外をぶらついた。その夜見た満月が綺麗だな、と思った。
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