ずっと走ってる。
それは人間的な本能のせいじゃないかと思う。
死ぬのが怖いんだ。
だからひたすら走る。
何かを恨めたらきっと楽だとか言うけれど、じゃあ何を恨むの。
ひたすら怯える母親か。偏愛されている兄か。母親に雇われたらしい僕を追っている人間か。能力者である自分自身か。それとも、ゴーストか。
僕はもう何日も隠れて走ってを繰り返してる。
だから感覚が壊れてるんだと思う。
走っていてもいなくても、足音が耳から消えてくれない。
幻聴なのかどうか、自分の足音かどうかさえもわからない。
だからまた走り出すんだ。
逃げ延びる。生き残る。死なないように。
ただそれだけ。
「僕は が欲しいだけなんだよ」
無意識に、呟いた。今じゃ何が欲しかったのかなんて覚えてない。
***
落ち着けるようになったのは、僕の周りから足音が消えた日。
おかしいと思って慎重に相手を探したけれどいなくて。
鏡を見たら、真白になった「ボク」がいた。
納得して鏡に向って笑いかける。心なしか立派な道化役者のように見えた。
「ボクは が欲しいだけなんですよ」
無意識に、呟いた。今じゃ何が欲しかったのかなんて覚えてない。
でも途方も無い願いだと思ったのは覚えてる。
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